大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成3年(行ウ)5号 判決

原告

森池豊武

右原告ら訴訟代理人弁護士

金子武嗣

秋田真志

青木佳史

峯本耕治

右訴訟復代理人弁護士

石田文三

泉薫

岩佐嘉彦

川西渥子

瀬戸則夫

野仲厚治

渡辺和恵

原告ら補助参加人

泉一彦

右原告ら補助参加人ら訴訟代理人弁護士

峯本耕治

野仲厚治

山田康子

被告(兵庫県知事)

貝原俊民

同(兵庫県教育委員会教育長)

下川常雄

同(兵庫県教育長)

清水良次

衣川清馬

右被告ら訴訟代理人弁護士

岸本昌己

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  争点1について

1  被告らは、原告らが本件監査請求の対象としたのは本件校門模様替え工事に関する一四四五万一〇〇〇円の支出についてであって、本件訴訟では、右監査請求の対象を超えた増額した請求を行っており、右増額部分については法二四二条の二第一項本文で要求されている適法な監査請求を経ていないというべきであって、右監査請求を経た一四四五万一〇〇〇円を超えた支払に係る本訴請求部分は不適法である、と主張している。

これに対し、原告らは、本件監査請求当時の新聞報道に基づいて一四四五万一〇〇〇円について監査請求を行ったこと、同監査請求において、県監査委員は、原告らの請求額を超えて二一四二万四〇〇〇円について監査を行ったこと及び右監査請求と本件訴訟との間には請求対象の同一性が認められることから、本件訴訟は法二四二条の二第一項本文の監査請求前置の要件を充たしている、と主張している。

2  住民訴訟は、監査委員の監査の結果そのものの当否を争うための訴訟ではなく、地方公共団体の財務会計上の違法状態を除去し、もって地方公共団体が損害を被ることを防止し若しくは被った損害を回復させることを目的とするものであることから考えると、住民訴訟の対象となる行為又は事実は、監査請求に係る行為又は事実とは必ずしも完全に一致する必要はなく、その対象事項に事件の同一性があれば足りると解するのが相当である。

なぜならば、仮に、住民訴訟の対象となる行為又は事実が監査請求の対象とされたものと完全に一致することが必要であるとすると、例えば、差止請求等の訴えが提起された後、訴訟継続中に違法な後続行為がなされ又は事実が発生した場合、住民訴訟を提起した住民に、再度監査請求から出直すべきことを要求することになって、多大の犠牲を強い、住民の正当な出訴権の行使を事実上制限する結果となるおそれがあり、また、実質的には同一内容の監査請求の繰り返しを要することになって妥当ではないからである。

3  そこで、本件訴訟と本件監査請求の対象事項に事件の同一性があるか否かを判断する。

〔証拠略〕によると、原告らは、本件監査請求において、本件校門の門扉を取替えて校門周辺を改修する行為は違法であるとして、被告らの計画する通用門模様替えの執行を停止し、校門、門扉を保存する措置を求め、また、一四四五万一〇〇〇円の支出について、被告らに対し連帯して右金額相当の損害賠償を求めたことが認められる。

右で認定した事実、及び一般の県民が高塚高校の外にあって本件校門に関する工事の正確な請負代金額を知ることは困難であることを併せ考えると、原告らの監査請求が本件校門の模様替え工事全体についての違法性を問題としていたと解するのが相当である。

したがって、本件訴訟と本件監査請求において請求金額に相違があるものの、なお、両者の対象事項には事件の同一性が認められ、本件訴訟については本件監査請求のほかにあらためて監査請求を経ることを要しないものというべきである。

二  争点2について

1  被告らは、法二四二条の二第一項四号の「当該職員」に該当するためには、被告らに法二四二条に規定する公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担等の行為を行う権限(以下「財務会計上の行為を行う権限」という。)があることを要するところ、被告貝原、被告下川及び被告清水には右権限が認められないので、右被告ら三名は「当該職員」に該当せず本件訴訟の被告適格が認められないと主張しているので、判断する。

2  普通地方公共団体の長は、「予算を調製し、及びこれを執行する」権限を有しており(法一四九条二号)、また、教育に関する事務に関しても「教育委員会の所掌に係る事項に関する予算を執行する」権限を有している(地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)二四条五号)。

ところで、県においては、右予算執行に属する事務のうち、「かい」で所掌する事務に係る「支出負担行為をする」事務及び「・・・支出命令・・・をする」事務は、知事からかい長に対して委任されている(法一八〇条の二及び財務規則(昭和三九年三月一日兵庫県規則第三一号、以下「財務規則」という。)四条一号ないし三号)。

そして、高塚高校は、財務規則二条二号、行政組織規則(昭和三六年四日二八日兵庫県規則第四〇号)四章、五章、昭和三九年四月一日兵庫県告示第三三二号の一一により「かい」に指定されており、また、財務規則二条四号により、高塚高校長がかい長となっている。

したがって、高塚高校で所掌する事務に係る財務会計上の行為である支出負担行為及び支出命令をする権限は県知事から高塚高校長に委任されていることになる(以上の事実は当事者間に争いはない。)。

3  被告貝原の被告適格

(一)  法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」とは、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者を広く意味するものである。

普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体を代表する者であり(法一四七条)、当該普通地方公共団体の条例、予算その他の議会の議決に基づく事務その他公共団体の事務を自らの判断と責任において誠実に管理し及び執行する義務を負い(法一三八条の二)、予算の執行、地方税の賦課徴収、分担金、使用料、加入金又は手数料の徴収、財産の取得、管理及び処分等の広範な財務会計上の行為を行う権限を有するものであって(法一四九条)、その職責及び権限にかんがみると、長は、その権限に属する一定の範囲の財務会計上の行為をあらかじめ特定の職員に委任することとしている場合であっても、右財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている以上、右財務会計上の行為の適否が問題とされている当該代位請求住民訴訟において、法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当するものと解すべきである。

(二)  そして、右委任を受けた職員が委任に係る当該財務会計上の行為を処理した場合においては、長は、右職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして、普通地方公共団体に対し、右違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である。

(三)  してみると、高塚高校で所掌する事務に係る支出負担行為及び支出命令をする権限が県知事の被告貝原から高塚高校長の被告衣川に委任されていたとしても、被告貝原は、右権限を法令上本来的に有するとされている者であるから、法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当し、本件訴訟における被告適格を有すると解するのが相当である、

4  被告下川の被告適格

(一)  教育委員会は、教育行政を処理するため、都道府県、市町村、特別区、教育事務組合などに設置される合議制の執行機関であり、おおむね公立の小・中・高等学校その他の教育機関を管理し、学校の組織編制・教育課程・機材・教職員などに関する事務を取り扱うとともに、社会教育・文化財・体育などに関する事務を管理し、執行する(法一八〇条の八、地教行法二三条)。

すなわち、右委員会は、地方公共団体の長の事務とされている大学及び私立学校に関する事務や財務事務に属する特別の事項(地教行法二四条)を除き、その地方公共団体の区域内における教育に関する自治事務を包括的に担任する(地教行法二三条)ものであって、教育財産の管理に関する事務も担うものである(地教行法二三条二号)。右委員会は、所管の公立学校の管理に関し、その全面にわたって、個別の法律、条例の根拠条文を要しない包括的な支配権(指揮命令権)を有する。

そして、教育委員会委員長は、右委員会の会議を主宰し、委員会を代表する者である(地教行法一二条三項)。

(二)  しかし、右二2で述べたとおり、高塚高校で所掌する事務に係る支出負担行為及び支出命令をする権限が県知事から高塚高校長に委任されているのであって、県教育委員会委員長は、本件訴訟においてその適否が問題とされている高塚高校における財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者に該当しないから、法二四二条の二第一項四号の「当該職員」に該当しないものと解するのが相当である。

(三)  したがって、本件訴訟において県教育委員会委員長であった被告下川に被告適格を認めることができない。

5  被告清水の被告適格

(一)  原告らは、県知事から高塚高校長に委任されている支出負担行為の権限は部局長による予算の令達を受けた範囲内で行わなければならないものである(財務規則四条二号、一六条)ところ、教育委員会において局長は教育長とされている(同規則二条三号)ことから、教育長には予算令達権限があり、この予算令達が住民訴訟の対象となる財務会計上の行為に該当するとして、教育長である被告清水は法二四二条の二第一項四号の「当該職員」に該当する、と主張している。

しかし、予算令達とは、地方公共団体において、予算を実際に使用する各部課に予算の配当を通知する行為のことをいい、行政内部の事務処理的行為に過ぎず、法二四二条の規定する財務会計上の行為には該当しないと解するのが相当である。

したがって、予算令達権限を根拠にして被告清水の被告適格を認めることはできない。

(二)  教育長は、教育委員会に置かれ、その指揮監督のもとに教育委員会の処理する事務をつかさどる機関であり、教育委員会の判断に専門家としての意見を反映させるため、単に事務局の長として委員会の事務を統括し、所属の職員を指揮監督するにとどまらず(地教行法二〇条一項)、専門的助言者としての職務を行うものである。

しかし、右二2で述べたとおり、高塚高校で所掌する事務に係る支出負担行為及び支出命令をする権限が県知事から高塚高校長に委任されているのであって、県教育長は、県教育委員会委員長と同様に、本件訴訟においてその適否が問題とされている高塚高校における財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者に該当しないから、法二四二条の二第一項四号の「当該職員」に該当しないものと解するのが相当である。

(三)  したがって、本件訴訟において県教育長であった被告清水に被告適格を認めることができない。

6  以上のとおりであって、本件訴訟において、被告貝原は、被告適格が認められるけれども、被告下川及び被告清水は、いずれも被告適格を有しないものというべきである。

三  争点3について

1  原告らは、本件校門模様替え工事に関して、その実質面及び手続面において被告衣川に財務会計上の違法行為が存在すると主張しているので、判断する。

2  実質面について

(一)  被告らは、本件校門の門扉に構造的な欠陥はなく、使用に耐えうるものであったとの前提に立ちつつ、そもそも、学校財産の取得、処分、維持、保存等に係る権限は校務をつかさどる校長にあり(学校教育法五一条、二八条三項)、本件校門模様替え工事の決定も高塚高校長の裁量権の範囲に属するものであるが、今回は、異例の事故によるものなので、被告衣川は、教職員、生徒等の理解と協力を得るためしかるべき「経緯」を経て、かつ、校長としての「教育的配慮」に基づき、本件校門模様替え工事を行うべきと判断したものであり、被告衣川が判断した内容や判断に至る手続には、何人の目から見ても明らなか過誤や不合理が認められないことは明白であるばかりではなく、右判断は適法で合理性があり、社会通念上も妥当なものであると主張している。

これに対して、原告らは、被告衣川に「教育的配慮」が存在したとは認められないし、また、仮に右「教育的配慮」が存在していたとしても、本件校門模様替え工事当時、本件校門が改修すべき客観的必要性は全くなかったこと、右工事には極めて多額の予算を必要とするものであること等からすると、被害者の遺族、生徒、職員、保護者等の理解と協力を得るという「経緯」を踏むことを要するが、被告衣川は右「経緯」をまともに踏んでいない以上、被告衣川のいう「教育的配慮」に右工事を正当化するだけの客観的合理性を認めることはできず、被告衣川の本件当初契約の締結(支出負担行為)、とりわけ右工事を行うべきとの判断は、裁量権の逸脱、濫用として違法といわざるを得ない、と主張している。

(二)  〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

(1) 被告衣川は、平成二年七月二六日、高塚高校長に転補すべき旨の内示を受けた。被告衣川は、右内示を受けた段階で、県教育委員会事務局学事課長であった大江剛(以下「学事課長」という。)と話し合いの機会を持ったが、その当時、本件校門を改修しようという気持ちが強かった。

(2) 被告衣川は、同年八月一日、高塚高校長に着任したが、着任後の同月中、本件校門をある程度改修したいと考えていた。

(3) 被告衣川は、同年九月六日、学事課長と本件校門の門扉について協議したが、その際、できれば改修に持っていきたい旨を学事課長に伝えた。学事課長は、右の改修についてその場で了解はしなかったものの、被告衣川と別れた後、被告衣川の主張する教育的配慮を理解して被告衣川の意向に沿いたいと考え、学事課長の権限で、同課内の営繕係に本件校門改修の設計図書の作成を指示した。

また、同日、被告衣川は、学事課長とともに教育長である被告清水に報告をしたが、その際、被告清水は、できるだけ学校側の要望に沿って措置したい旨の意向を示した。

(4) 同月八日、高塚高校で全体保護者会が開催されたが、その際、被告衣川は、本件校門改修の意向を明らかにしなかった。

(5) 同月一〇日、高塚高校の校長、教頭、事務長、校務分掌上の各部の部長、主任など約一四名から成る校務運営委員会が開催され、本件校門改修について話し合われたが、その場では改修に反対という意見は出なかった。

(6) 被告衣川は、同月一一日、学事課長と本件校門の門扉の取替えについて話し合い、本件校門改修工事をできるだけ早く実施したいと考えていたので、学事課長とともに教育長を訪ねた。

(7) 同月一二日、高塚高校の職員会議において、被告衣川は、本件校門改修についても同校生徒に働きかけていきたい旨を表明した。

(8) 被告衣川は、同月一三日、高塚高校の生徒会執行部と一年七組代表の生徒らに対して、初めて校門改修の話をしたが、その際、生徒会執行部から何らの答えはなかったけれども、彼らが真剣に聞いていたことをも併せ考えて、生徒会執行部は了解したと認識した。一年七組代表の生徒らは、翌日まで回答を持ち越し、翌日、異議がないとの返答をした。

(9) 同月一四日、高塚高校において、校長、教頭、生徒指導緊急検討委員会の構成員ら学校側関係者約二〇名、育友会本部役員及び理事ら同校生徒の保護者側関係者並びに生徒会執行部及び生徒学年代表ら生徒側関係者らの三者で構成された三者会議が開催され、右席上で、被告衣川は、本件校門改修の意向とその理由等を説明した。

(10) 被告衣川は、同月一七日、高塚高校の職員会議において、本件校門改修工事について説明したが、反対意見は出されなかった。

同日、被告衣川は、前述の経過から生徒や生徒会、保護者あるいは育友会及び教職員のおおかたの賛意を得たものと確信し、また、報道機関を通じて本件校門事故で死亡した女子生徒の遺族(以下「訴外遺族」という。)が本件校門を見たくない旨の発言をしていると聞いたことをも併せ考え、高塚高校長として、本件校門を本件事故当時のまま存置することは適切でないのみならず、本件事故に対する厳しい反省の決意を受け継ぐためにも本件校門を改修してその周囲に花壇を設置し、また、生徒の明るく充実した高校生活のための環境をも整備しようとの教育的配慮から本件校門改修の決意を固めた。

(11) 被告衣川は、同月一八日、学事課長に対し、口頭で本件校門改修工事の実施を正式に要請した。

(12) 被告衣川は、同月二〇日、本件校門前に設置されていた祭壇を撤去するとともに、右校門を改修する旨を訴外遺族の代理人を通じて文書で訴外遺族に通知した。

(13) 同月二一日、被告衣川に対して生徒会執行部が全校生徒の意見を聞いていない旨を申し入れたので、被告衣川は、全校生徒には同月二八日に自ら話をすると回答した。

(14) 同月二六日、高塚高校の職員会議において、本件校門改修について反対である旨の意見も出された。

(15) 被告衣川は、同月二八日、高塚高校の全校集会において、本件校門が改修されることになった旨を話した。

(16) 被告衣川は、同月二九日、訴外工務店との間で本件当初契約を締結し、翌三〇日、訴外工務店は、右契約に従って工事に着工した。

(三)  高等学校の校長は、校務をつかさどる者であり(学校教育法五一条、二八条三項)、校務とは、学校経営上、必要ないっさいの仕事を指し、それを分類すれば、学校教育の運営に関する事務、学校教育の内容に関する事務、教職員の人事管理に関する事務、児童、生徒の管理に関する事務、児童、生徒職員の保健安全に関する事務、施設、設備、教具の保全管理に関する事務が含まれる。したがって、本件校門の改修の決定も校務に含まれると解される。

そうすると、本件校門の改修は、教育についての専門家で高塚高校長である被告衣川の合理的な裁量判断に委ねられているものというべく、その判断の内容や手続に何人の目から見ても明らかな過誤や不合理があると認められる場合でない限り、その判断が法的に違法であるとされることはないものといわなければならない。

〔証拠略〕によれば、高塚高校の生徒会や生徒、保護者、教職員の中には本件校門を存置すべきとの意見を持つ者が存在したことも窺われるが、しかし、右で認定した事実関係からすれば、被告衣川の本件校門模様替え工事の判断の内容及び右判断をするに至る過程に、何人の目から見ても明らかな過誤や不合理があるものと認めることは困難であり、したがって、被告衣川の右判断が法的に違法であると解することは相当でない。

3  工作物の用途廃止、処分及び取得の手続面について

(一)  原告らは、本件校門模様替え工事について本件公金を支出する前提として、右工事がなされた区域(以下「本件工事区域」という。)に右工事以前に存在した教育財産である工作物の用途廃止、処分及び取得の各手続が必要であるところ、本件においては、右各手続が欠けているから、被告衣川の契約の締結(支出負担行為)も違法であると主張しているので、判断する。

(二)  用途廃止について

(1) そもそも、教育財産は、用途廃止の手続を経て教育財産を普通財産に切り替えた上でなければ処分できないものである(法二三八条の四、同条の五)から、県立高等学校の校門を取壊して廃棄し、新しく校門を設置する改修工事を校長が実施する場合、まず、教育財産である校門のうち工作物の用途廃止の手続を経て普通財産に切り替えることが必要となる。

本件では、誰が右用途廃止の権限を有するかにつき争いがあり、原告らは、県教育委員会事務局財務課長(以下「財務課長」という。)が文書により県教育長の決裁を受けなければならない、と主張し、被告らは、財務課長の専決事項であると主張しているので、判断する。

(2) 用途廃止は、教育財産の管理に係る事務であるところ、県において、右事務は県教育委員会(地教行法二三条二号)から県教育長に委任されている(地教行法二六条一項、教育財産管理規則(昭和四六年三月三一日兵庫県教育委員会規則第一号、以下「本件管理規則」という。)四条一項)。本件校門は、「かい」である高塚高校で使用されていることから、高塚高校の所属となり(教育財産等の取得、管理及び処分に関する規程(昭和五八年四月一日兵庫県教育長訓令第一号。以下「本件規程」という。)三条)、その用途廃止の具体的手続は、校務の一つとして学校長の被告衣川が校門改修の実施を決定した後、かい長である被告衣川が財務課長に用途廃止の申出を行い(本件規定四四条一項)、教育財産等の相互調整の事務を担当する財務課長は、用途廃止をしようとするときは文書により県教育長の決裁を受けなければならない(同規程二七条)が、県教育長の右決裁は兵庫県教育委員会事務局本庁決裁規程(昭和四三年二月一日教育長訓令甲第二号。以下「本件決裁規程」という。)六条により課長専決事項となっていることから、結局、財務課長の専決により用途廃止を決定することになる。そして、財務課長は、用途廃止を決定したときは、かい長にその旨を通知しなければならない(本件決裁規程四四条二項)。

なお、原告らは、仮に用途廃止が本件決裁規程六条により財務課長の専決事項であるとしても、本件は、世間を騒がせた重大な事件に関わるものであって、例外的に同規程四条によって上司の決裁が必要とされる場合に該当する、と主張している。しかし、本件用途廃止は、本件全証拠によって同規程四条のいずれかの号に該当する場合と認めることができないことから、原告らの右主張を採用することはできない。

(3) 〔証拠略〕によれば、平成二年九月二〇日、被告衣川が樽井清財務課長に教育財産用途廃止申出書を提出したこと、同課長が、同日、右申出を受けてその内容を審査し、用途廃止を適当と判断して用途廃止を決定し、右決定を即日被告衣川に通知したことが認められる。

これに対して、原告らは、〔証拠略〕は平成二年九月二〇日に作成されたものではなく、後日作成されたものであると主張するが、本件全証拠によるも、右事実を認定することはできない。また、原告らは、本件工事区域において取壊された工作物について用途廃止手続がなされていない旨も主張するが、〔証拠略〕によれば、右工作物のうち用途廃止が必要なもの(以下「本件工作物」という。)についてその手続を経ている事実が認められるから、原告らの右主張も採用することができない。

(4) したがって、用途廃止手続は適正に行われたと解するのが相当である。

(三)  処分(取壊し、廃棄)について

(1) 改修工事による取壊し、廃棄を予定して用途廃止がなされた工作物は、教育財産から普通財産となり、その工作物の取壊し、廃棄の権限を有する者が、それを決定することになる。本件では、この権限者が誰であるかについて争いがあり、原告らがそれは教育長であると主張するのに対し、被告らはそれはかい長である被告衣川であると主張するので、判断する。

(2) 用途廃止によって教育財産から普通財産に切り替えられた工作物の処分は、普通財産の取壊し、廃棄であって、その事務は、地方公共団体の長が行うものである(地教行法二四条三号)が、県では、「かい」の所属に関するものについては、公有財産規則(昭和五八年二月一八日兵庫県規則第一一号。)一〇条二項四号によって、知事からかい長に委任されている。したがって、当該工作物の取壊し、廃棄は、公有財産管理者としてのかい長(公有財産規則二条七号、一〇条二項四号)が文書によりこれを決定しなければならない(同規則七一条)。すなわち、本件工作物の取壊し、廃棄については、かい長である被告衣川にその事務が委任されていたのである。

これに対して、原告らは、本件工作物の取壊し、廃棄は、本件規程三四条一、二項により財務課長が文書により教育長の決裁を受けなければならないものであって、本件では、教育長の決裁が存在しないと主張している。しかし、本件規程は、「本件管理規則四条一項及び一三条の規定により、教育長に委任された教育財産の管理に関する事務並びに公有財産規則の規定により教育長に委任され、又は教育長が補助執行することとされた公有財産の取得、管理及び処分に関する事務の取扱に関して必要な事項を定めるもの」(本件規程一条)であり、かい長に委任された公有財産である普通財産の処分(取壊し、廃棄)は本件規程の規定対象外の事務となる。したがって、原告らの右主張を採用することはできない。

(3) 〔証拠略〕によれば、被告衣川が、用途廃止の通知後から本件当初契約締結時までの間に、本件工作物について取壊し、廃棄の実質的な決定をしたことが認められる。

なお、文書による右取壊し、廃棄の決定が平成五年七月二九日付であることから、右決定は公有財産規則七一条に抵触して違法であると原告らは主張するが、同規則は、行政事務の分配等、すなわち国民の権利義務に関係しないことを定めるいわゆる行政規則であると解するのが相当であることから、かい長である被告衣川によって実質的な取壊し、廃棄の決定がなされていれば、右決定の効力そのものに影響はないと解される。

(4) したがって、取壊し、廃棄手続は適正に行われたと解するのが相当である。

(四)  取得について

(1) 本件校門模様替え工事によって新たに設置される教育財産としての工作物については、その取得の権限を有する者が取得決定を行う。

教育財産の取得の事務は、地方公共団体の長が行うものである(地教行法二四条三号)が、県では「かい」の所属に関するものについては、公有財産規則一〇条二項一号、一六条によって、その事務は知事からかい長に委任されている。したがって、工作物を取得しようとするときは、公有財産管理者としてのかい長(同規則二条七号、一〇条二項一号)が文書によりこれを決定しなければならない(同規則一六条)。このように、本件校門模様替え工事によって新たに設置される工作物の取得については、かい長であった被告衣川にその事務が委任されていたものというべきである。

(2) 〔証拠略〕によれば、被告衣川が、用途廃止の通知後から本件当初契約締結時までの間に、本件当初契約に基づく工事によって新たに設置される教育財産としての工作物について取得の実質的な決定をしたことが認められる。

なお、文書による右取得の決定が平成五年九月一三日付であることから、公有財産規則一六条に抵触して右決定は違法であると原告らは主張するが、右(三)(3)で述べたように、同規則は、行政事務の分配等、すなわち国民の権利義務に関係しないことを定めるいわゆる行政規則であると解するのが相当であるから、かい長である被告衣川によって実質的な取得の決定がなされていれば、右決定の効力そのものに影響はないと解するのが相当である。

(3) したがって、取得手続は適正に行われたと解するのが相当である。

(五)  右(二)ないし(四)で認定したように、本件校門模様替え工事で必要とされる用途廃止、処分及び取得の各手続は適正に行われており、したがって、右各手続が欠けているとの原告らの主張を採用することはできない。

4  予算令達の手続面について

(一)  右二2で述べたように、高塚高校で所掌する事務に係る支出負担行為及び支出命令を行う権限は県知事から高塚高校長に委任されている。

ところで、原告らは、かい長は「財務規則一六条の規定による令達を受けた予算の範囲内で支出負担行為をすること」を要し(財務規則四条二号)、右予算令達権限は、県教育長にあるが、本件では、被告衣川の支出負担行為の前提となる予算令達が平成二年九月一八日に存在したという事実はなく、また、仮にあったとしても、右予算令達について財務規則で要件とされている県教育長の決裁がない以上、その手続に違法があり、本件公金支出も違法であると主張しているので、判断する。

(二)  財務規則は「部局長は、・・・その所管するかいに、当該かいの予算を令達しなければならない。」と規定しており(同規則一六条一項)、右部局長とは、本件では県教育長(同規則二条三号)であるが、県教育長の右事務は、本件決裁規程六条により、予算令達事務を所掌する財務課(兵庫県教育委員会行政組織規則(昭和五八年四月一日教育委員会規則第九号)一〇条一号)の課長の専決事項となっていることから、結局、財務課長の専決により予算令達をすることになる。

なお、原告らは、仮に予算令達が本件決裁規程六条により財務課長の専決事項であるとしても、本件は、世間を騒がせた重大な事件に関するものであって、例外的に同規程四条によって上司の決裁が必要とされる場合に該当する、と主張している。しかし、本件予算令達は、本件全証拠によっても同規程四条のいずれかの号に該当すると認めることはできないから、原告らの右主張を採用することはできない。

(三)  〔証拠略〕によれば、平成二年九月一八日以前に学事課長が財務課長に対して本件校門模様替え工事に関連する予算令達について根回しをしていたこと、同日、学事課長が財務課長に対し右令達を依頼し、財務課長は、即日、右令達を決裁したことが認められる。

(四)  よって予算令達手続の不存在ないし違法を理由とする原告らの主張を採用することはできない。

5  したがって、本件校門模様替え工事に関して、被告衣川に原告らの主張するような財務会計上の違法行為を認めることはできない。

第四 結論

以上のとおりであって、原告らの被告下川及び被告清水に対する訴えをいずれも不適法として却下し、原告らのその余の被告らに対する本訴各請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないからいずれもこれを棄却し、訴訟費用(参加によって生じた費用を含む)の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九三条一項本文、九四条後文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 辻忠雄 裁判官 渡邉安一 溝口稚佳子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!